組子には、七宝、菱、亀甲といった吉祥文様がデザインとして使われています。これらは縁起物ともいわれ、冠婚葬祭や端午の節句などのお祝いの場でもおなじみです。それにしても、なぜ組子の紋様には縁起物が多く使われているのでしょうか? 今回は、組子と縁起物の関係を紐解き、そこに込められた願いに思いを馳せてみましょう。
亀甲、菱、七宝など縁起物デザインが多い組子
縁起物を辞書で引くと、「よい縁起を招くとされるもの。門松やしめ飾り、またはだるまや招き猫、熊手など社寺から参拝者へ贈られるもの」と書かれています。組子には、このようなめでたいもの、晴れがましいものを表す縁起物が意匠としてかたどられています。
たとえば組子紋様のひとつである『七宝(しっぽう)』。これはもともと仏教由来の言葉で、金・銀・瑠璃・玻璃・珊瑚・瑪瑙(めのう)・しゃこといった宝物を指します。仏教において「三・七」は吉祥数とされ、災厄から身を守ると信じられてきました。
むかしから多く用いられてきた吉祥文様の『亀甲』は、文字通り亀の甲羅を模しています。亀は万年生きるといわれる、むかしから長寿の象徴と崇められてきた生き物。亀甲には長寿と無病息災の願いが込められているわけです。
また、池や湖沼ですくすくと育つ菱や麻などは、古代人に力強い生命力の象徴と映ったことでしょう。菱や麻の葉をかたどったデザインには災厄や病に負けずたくましく生きたいと願う、古代人たちの思いが込められているといえます。
組子細工に込められた思い
日本にはむかしから、「ハレ・ケガレ」思想があるといわれています。ハレは「非日常」を意味し、五穀豊穣を祝う特別な日を「ハレの日」とする習慣があります。また、ハレには不吉な出来事や不幸、凶事などの「ケガレ」を打ち払う力があるとも信じられてきました。
お酒をふるまい、尾頭付きの魚や赤飯などを用意するハレの儀式では、厄除けや鎮魂、招福開運、五穀豊穣などを神に祈ります。それと同時に、ケガレにおののく心を何とか鎮めようとする狙いもあったと思われます。
組子にあしらわれる吉祥文様には、病や災害、死への恐れと、幸を呼び寄せ安らかに生きたいという願いが同居しているといえましょう。千五百年以上連綿と受け継がれてきた伝統技術にはこのような切実な思いも込められていると考えると、また違った感慨が湧いてくるかもしれません。
まとめ
組子の美しいデザインには目を見張るものがあります。しかし、組子の歴史を紐解くと、そこには古代人たちが生や死について真剣に恐れ考えてきた、隠れた姿もみえてきます。組子の意匠は古代人たちの心を宿した刻印といえるかもしれません。その歴史や職人たちの思いをみつめることもまた、組子の楽しみ方のひとつでもあります。
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